|
魔笛【夢幻】
魔力の息で演奏すると、脳内のイメージが曲になる不思議な笛。
幻を見せることも……?
『チェインパラドクス』(c)村主絵師/トミーウォーカー
|
―――
●夢幻の希望
真輝は笛が下手だった。
同年代の子供たちが1つの曲を演奏できるようになっていく中、音を出すことさえ上手くできないほど。
真輝の笛から鳴るのは空気が筒を抜ける音ばかり。
やっと音が出たかと思えば、ひょ~、と消え入りそうな情けない音しか鳴らない。
「汝(な)げにおろかかな!」
トモダチには、いつも笑われていた。
笛なんか、好きじゃなかった。
「蓮華、汝(な)にこころざしなり」
そう言う師に渡されたのは、笛だった。
「吹きて」
言われて吹くも、いつもと同じ、情けない音が風に消えていく。
真輝が嫌そうな顔をするも、師はにやりと笑って。
「よきや、汝(な)ならばう。謀られきと思ひて……さりな、小鳥思ひ浮かべ、吹くべしと念じて吹け」
騙されたと思って。
吹いてみると、小鳥のさえずりのように、綺麗な音が鳴るのだった。
「是(こ)は、汝(な)のほかにえ扱はず。汝(な)ばかりの笛なり」
『夢幻』と名付けられたその笛は、魔力の息を吹き込むことで、奏者の思い描くものを音として表すらしい。
もう一度。笛を構え、目を閉じて、風景を思い浮かべ、息を込める。
「な、何ぞ是」
「清げなる桜……」
彼らには、見えていた。大きな1本の桜の樹から、ひらひらと桜が舞い散る光景が。
それは、『夢幻』が見せた幻。
これには師までもが驚いていた。
その後も、練習の時には普通の笛を使い、演奏できないまま大人になったという。