●適応する獣
まづは文をとぶらふとせむ。
されど、ふむ。其は何処に在るや。
どれ……。
「其処な人、我は文をとぶらへり。何処へ向かはば在るや」
とみなる問ひに驚き、また言の葉通じるまじけれど、あやしき板を使ひてとぶらひきべく、図書館なるものを教へき。
地図に印まで記しき。
ディアボロスとやら、『残留効果』なるものに【飛翔】なぞうめれど、今回はこの地を見るも含め、歩むとせむ。
我の知る日の本国とは覚ゆとも似つかぬ街を歩む。
辿りつきし図書館とやらには、様々なる文ありき。
まづは今を知ることなり。
言の葉の通じぬはびんなくせむかたなし。
言の葉の移り変わりを記しし本などを心に読みゆきき。
他国の者が日の本の言の葉を覚ゆる際に『漫画』なるものを読むと聞き、其も読むことにせり。
日ごろの間、図書館に通ひ、今への心得を深む。
同時に、街を歩みて今人の言の葉を耳に覚ゆることにせり。
「日の本の言の葉とは、他国に比べ、わづらはしめりな。己や心得らるるか?」
「おほかたわからず」
こやつめ予想どおりの返答をしよる。
さて我は……俺は、もう少し現代人を観察するとしよう。
まこと奇怪な衣を纏い、難解な言葉を発す者たちよ。
俺のいた国と違わぬとは、時代の流れというものは、かくも世を変えていくのだな。
しかし気になるのは……現代人と思しき者同士で言語の疎通ができておらんことがある、ということだ。
何故そのような難解な言語を生み出しておるのか。
食にしてもそうだが、この国は個性出し過ぎではないか?
「しかし、よかったな。お前のような『異端』らしき者がこの島には大勢いるぞ」
「……昔の言の葉に言はなむ」
「断る。お前も現代の言葉を学べ」
こやつに現代の言葉を覚えさせるのは難儀しそうだな……。
されどディアボロスとなってからは、以前より記憶力も幾分よくなったようにも思える。
俺も引き続き、現代語を学ぶとしよう。