●新宿という街
この街は、賑やかだ。
俺のいた時代の面影など全くない。
眠らない街。
夜中だろうが関係なく、どこかしらに明かりが点いている。
島になる前から、この光景は変わらないらしい。
しかし、それは中心部の話。
島である以上、夜の海岸に出れば闇が広がる。
昼間であっても、見えるのはどこまでも広がる海と空、ただそれだけだ。
昼過ぎの海。太陽を反射してめちゃくちゃ眩しい。
真輝が時々海岸を訪れて、遠くを眺めているのを俺は知っている。
吸い込まれるように落ちかけて、俺が慌てて【飛翔】して陸に戻ることもあった。
俺が油断して寝ている間に、本当に落ちて溺れかけたこともあった。
それでも、アイツは海を見る。
俺は、知らなかった。
ヒトの心がこんなにも脆いということを。
――否。知っていた。忘れていた。
弱き想いは移ろいやすく、強き想いは折れやすい。
村人が、俺が、そうであったように。
真輝――蓮華にとって、大事な物はありすぎるほど多くあったが、心底大切に思っていたのはただ一人。
一番の、唯一の友であった男。
彼を失い、自分だけがこの世界へ来てしまったことを、ずっと気にしていた。
仮に、あの時代を取り戻したとして、彼の時間は止まったままだが、真輝の時間は動いている。
何より、正しい歴史、なんてものを正しく取り戻したのであれば、平安の世は、とっくに過ぎ去っているのだ。
いずれにせよ、既に相容れぬ存在になっているであろうことは、想像に難くない。
幸か不幸か、この時代において、大切に思える存在に出会っている。
そのおかげか、吸い込まれるように海に落ちる、なんてことは、ここのところは起きていない。
ただ、そいつを失うようなことがあれば、今度こそどうなってしまうかわからない。というのは悩みの種ではあるが。
それにもし、万が一、旧友と出会ってしまうことがあるならば、双方に罪悪感を覚えるのかもしれない。
……夕方の音楽だ。陽が落ちてきたな。
とはいえ、平安の世と違って、夜中でも出歩ける時代だ。
まだまだ店も閉まりやしねぇし、居酒屋なんてのはこの時間から店を開けるらしい。
旧時代から来た奴ら、元の時代に帰れって言われても帰れねぇだろうなぁ。
「いらっしゃいませ、お好きなお席へどうぞ」
「どーも。注文いい? 豚骨醤油、硬め濃いめで――」